ふり出しに戻る

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アメリカの作家、ジャック・フィニイの著書、「ふり出しに戻る」という本があります。英語のオリジナルは、こちらー>「Time and Again」主人公が、ジョン・レノンとヨーコ・オノのお住まいで有名なダコタ・ハウスの一室を通して過去へと時間旅行をするお話し。私のお勧め本の一つです。

私は、ニューヨークに移住して以来、人生につまった時に「ふり出しに戻る」事にしています。ふり出しに戻るとは、つまり「初心に帰る」ということです。

私の初心に帰る方法は、ニューヨークに来るきっかけを作ってくれたマーサグラハムのダンスに触れることなんです。数年前までは、マーサ・グラハム・ダンススクールにダンスのクラスを取りに行っていました。若くて、細くて、綺麗な、しかも良く動けるお嬢さんたちと一緒に、パンツ一丁ならぬレオタード一枚で、恥も外聞もなく踊ることで、ニューヨークに来たばかりのころのフレッシュな気持ちを思い出していました。また、生徒に戻ることで、これまで築いてきた自分を一旦崩し、もう一度作り直す。そうすることで、より満足できる自分と幸せな人生をクリエイトできるようになります。

今年は流石の私も56歳になるところ。レオタード一枚の老体をさらすのはちょっと恥ずかしいので、代わりにシティ・センターで催されたパフォーマンスを見に行ったんです。ちょうど今年の演目の中に、私が25年前に踊った作品「パノラマ」が上演される事もあって、旦那が気を利かせてチケットを買っておいてくれました。

<–これは、1993年のニューヨークのシティセンターで催されたマーサ・グラハム舞踊団のプログラム。実は、私の名前がダンサーとして出ています。

<–これは、1994年7月1日付のインタリアの新聞、Corrierre della Seraです。最前列左から2番目のダンサーが約25年前の私。イタリアのスポレート芸術祭に、マーサグラハム舞踊団の一員として参加した時の記事です。

私はその当時、未だスチューデント・ダンサーでした。この作品「パノラマ」は、1935年が初演のコレオグラフを、私が在籍していた当時のディレクターがまとめ直して再演することになったものです。30人ものダンサーを必要とするこの作品のために、学生の中から特別にオーディションをして集めたのです。多くのダンサーが憧れた、その当時世界No.1のモダンダンス・カンパニーです。私は、本当にラッキーでした。どんなに頑張ってテクニカルに優秀なダンサーであっても、ちょうど良いタイミングでチャンスが到来しなければ、世に出ずに終わってしまうのです。そして、そんなダンサーたちが何人もいたはずなのです。私が、グラハム舞踊団の一員として舞台を踏む経験を得ることができたのは、まさに奇跡でした。

昨日のグラハムの公演は、実に私をふり出しに戻してくれたのです。何故、ニューヨークへ来たのか、何故、あんなにまでしてグリーンカードの取得とアメリカに住むことに拘ったのか、何かしたかったのか、私の人生おけるパッションがどこにあったか、自分にどんな力があるのか等々、いろいろ忘れかけていたことを思い出させてくれました。そして、そういった事々を思い出すことは、私の魂を若返らせ元気にしてくれるのです。

蘇る記憶の中に一つ「はっ」とさせられたのは、私のキュリオシティが、この当時から「感情表現」にあったことでした。私は、人間の感情表現に魅力を感じるのです。